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\ interview /インタビュー

緑のごみ銀行 代表 松本美智子さん

生ごみ堆肥で緑豊かな文京区に

―もう本当に夢中になってしまいました。友人に「花屋でもやるの?」と言われるくらいです。私は子どもの時から運が良くて、「これはいつか何かお返ししないと」という思いは、ずっとありました。ボランティアと偉そうに言っていても、それは自分の為です。皆さんのお陰で幸せですー

と、目を輝かせて語る松本さん。お話を聞いてみました。

好きなことをして「ありがとう」と言われる

3人の男の子を育てながらテニスをしていました。文京区代表として大会に何度か出場させていただいたこともあります。それが一段落した50歳の頃に、ガーデニングに関心を持ちました。思い立ってうちの一階の角に花を植えたんですよ。息子の理科の教科書を見て勉強するところから始めて資格も取りました。そうしてお花のお世話に熱中するうちに花壇が評判になって、遠くから訪れる人もありました。

ある時、ご年配のご夫婦に、「主人が歩きたがらないんだけど、あの花を見ましょう。と言うと歩いてくれるのよ。この花のおかげで元気になってきたの。ありがとう」と言われました。人の為にしていたわけではなくて、好きなことをしていただけなのに。それで「花を植えて喜ばれるなら、私にもボランティアができるかもしれない」という気持ちが出てきたんです。

主婦の趣味からボランティアへ

そんなある日、白山通りの植栽が枯れていたんですね。それを見たら「とにかくどうにかしなくては」と思いました。1998年に東京都の建設局にかけあって、そこに花を植えてみましたが、残念なことに育ちませんでした。水やりをしても土が湿らず、はねて出て行ってしまいました。当時の街路樹係の係長さんが対応され、土質を調べたところ何を植えても育たない土だとわかりました。そして「堆肥の力で生き返らせましょう」ということになりました。元気な花を咲かせ続けるには肥えた土が必要だと。

え?生ごみが土になる?タダだし。やってみよう。

ガーデニングをするために土を買いますが、それが花より高いんですよ。うちはマンションで庭はないので土が必要なんです。とにかく、土代を浮かそうと思ったことが堆肥作りのきっかけです。
できるだけお金を使わないで、いつも綺麗な花を咲かせていたいわけです。それで、どうしたら良いかと思案していたときに、生ごみが土になるという話を耳にしたんです。「え?生ごみが土になる?タダだし。じゃあ、やってみようか」と始めてみました。
ところが、土は不思議なくらい増えません。風で飛んでいったり、土の微生物が食べたりするんですよね。だから結果的に土代を浮かそうとした考えは全く通用しませんでした。
その代わり、生ごみで古い土を再生する方法は最高でした。生ごみは米ぬかで和えて堆肥にすることができます。それを栄養のない古い土に混ぜると水持ちがよく水はけがよい元気な土になります。生ごみの堆肥の土って本当にすごいんです。市販の再生剤を用いた土より良いんですよ。

それから、私はもったいなくて生ごみを捨てられなくなりました。生ごみを堆肥にするには「新鮮な物を使う」「細かくする」「水分を減らす」この3つが大事。沢山のゴミは要らず、野菜ごみだけ水分を絞って使います。小さなベランダでもできます。
環境といえば環境ですし、エコと言えばエコかもしれませんけど、最初はそんな事は全く考えていませんでした。

自分達の想いを形に。願いをこめた名前『緑のごみ銀行』

堆肥作りに1人で取り組んでいた頃、文京区主催のリサイクルセミナーに参加しました。そこで出会った3人が「堆肥作りって面白いんじゃない」と言ってくれてグループになりました。そして、活動するにあたり『緑のごみ銀行』と名乗ることにしました。
銀行はお金という大事な物を預かって利子をつけて返すところですよね。堆肥作りにとってはごみが大事な物。それを預かって、大きくして、良い土にしてお返ししたいと思いました。私たちのやっていることは“ごみ”の“銀行”なんだという考えからです。
それから、文京区をもっと“緑”豊かにしよう、街の景色を見る人の笑顔を増やすNPO法人になりたい、そういった自分達の想いが形になるようにという願いを込めました。

街での取り組み~堆肥作りから花壇作りへ

最初の生ごみ堆肥の活動は、行政も力を入れてくれました。うちの指ヶ谷町会の町会長さんを中心に50世帯が一丸となって生ごみを用いた堆肥作りの試作をしました。そのうち文京区でも、という構想もあったんですよ。でも住宅街では生ごみ特有の問題も起きやすくて実現できませんでした。
それで、水道橋の都有地に町内会の生ごみを入れたりしていましたが、区長に区有地でやらせて欲しいとかけあって、第4中学校の跡地を利用して何年か取り組みました。それぞれの家で堆肥にしたものを自家用車やトラックで運んで集める方法をとりました。
そして、2005年からは御茶ノ水橋の下に場所を借りて大々的に耕しました。あそこは大変だったんですよ。たかが3m×15mと思われるかもしれませんが、力仕事ですからね。しかし今度は、震災や工事等で中止せざるを得なくなりました。

          【御茶ノ水橋の下で堆肥作りをする松本さん】
                                                 
今の私達の主な活動は、区民センター前の花壇作りです。文京区の表玄関なのに以前は荒れており、これは区民として放ってはおけないと思いました。みどり公園課に出向いて、「生ごみ堆肥でここを綺麗にします」と申し出ました。2001年から始めてもう20年以上経ちますね。区役所の方もこんなに長く続くとは思われなかっただろうと思います。

植え替えは春と秋にしています。最近では、土が良くなったので1年草が生き延びてくれます。それが多年草になって全取り替えしなくてもよくなりました。体力とお金と時間の節約になっています。

          【区民センター前の花壇作り】

お花っていうのは癒されるんですよね

花は見る人を癒してくれます。精神的に疲れてしまった学生さんなどが来てくれて、楽しそうに参加されているのを見ると、「ああ良かったなあ」と思います。「ここを通るとき、『これ自分のお花だ。応援してるよー』って声をかけてね」と言ったら、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれました。花壇作りを通して元気になっていただくと、こちらも嬉しいんですよね。

無理して集めない。無理して頼まない。ボランティアは自分の幸せの為

活動の収支は毎年赤字です。でも、それは自分が楽しむための必要経費と思ってやっています。
私達の活動は強制ではなく、好きなときに気が向いたら来ればいいというものです。出欠も取らないし、遅刻早退も関係ありません。来られる人が来て、やりたい人が勝手にやります。長時間引き止めるようなことはしません。その方が参加する人も気持ちが良いと思うからです。
事前に誰が来るのかも知りませんから、活動日の度に「今日は私1人かもしれない」と思って向かいますが、いつも数人集まっています。楽しいと思って参加してくれる人たちがいることが有難いです。こういう活動に来てくれる人はいい人ばかりなので、会うだけで幸せだと感じます。花に会いに来ているけれど、仲間にも会いに来ているという感じですよね。
ボランティアと偉そうに言っても、それは皆さんのお陰で幸せということです。ボランティアは自分の為です。つくづくそう思います。

文京区主催の文京ecoカレッジにて、仲間と堆肥作りの講座を毎年2回以上やっています。「生ごみ減量塾」という講座で、野菜くずで作る生ごみ腐葉土の作り方・使い方の講義から実習までを楽しく学んでいただけます。今年はコロナ禍もありオンラインで行いました。
また、文京ecoカレッジには「エコ先生の特別授業」という出張講座もあり、様々な先生方が登録されています。その中にも担当させていただいている「楽しいエコガーデニング」や「生ごみってえらい!-不思議な生ごみ-」などがあり、参加者が5人集まれば私が出向きます。派遣されて小学校などのイベントに行くこともあります。

ご興味があればリサイクル清掃課(03-5803-1135)に問い合わせてみてくださいね。

このページを執筆したセカンドステージ
サポートゼミのみなさんと一枚

\ 取材後記 /

「大変な事なんて何もなかったわよ。好きな事をただやってきただけだから。」
長く活動をされてきて、さぞご苦労がおありだったのでは?と、インタビューの終わりに伺ったところ、気さくな明るい口調で話してくださいました。
『好き』から始まった小さな一歩が思いがけない活動につながり、その活動を『楽しい』の思いだけで、軽やかに粛々と、地道に続ける芯の強さ。そして、そうできたのはここで出会った人たちのおかげと感謝する謙虚さ。
そんな松本さんが、たおやかな花そのものに思えるインタビューでした。